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2026/05/22

書き出し3編

1. (田園)

田園は眠っている。小さな川は固まっている。花びらは地に落ちない。時間の不器用な目で撮られた風景だろうか。鳥の鳴き声は空中で止まっている。干された長靴や軍手も黙りこんだまま。一切は張りついてひとつのコラージュをかたち作っている。

しかしその女(形状)だけは畝をゆうゆうと歩いてくる。陰で真っ黒い。ついさっき獣を殺めて来ましたというような軽やかな手つき。

回廊を真っ直ぐに進んで巨大なビニルハウスの闘技場に出る。その全裸を内側から支えている力の均衡によって弾力がありながら緊張を維持し、よって無限の予感に満ちている。

散らばっていた照明が一斉に振り向き、中央に光のゾーンを作って女を縛り付けた。銃口を向けるのではない、生の温かみと無駄なしなやかさを持つ視線がみだらに収束する。


2. (蟹)

父親は蟹に変形しながら海を目指す。起伏の激しい海岸。岩場にぶつかった波が水しぶきを上げるたび、虹が現われるとともに、宙に映画会社のマークが映っては消える。果てしなく繰り返される無人の見世物。

──コレハ映画ノ中デハナイカ!

と意識した途端、ダイヤモンドの真ん中に自分がいて、一塁を凝視していた。急いで首を10時方向へねじ曲げてみる。走者と助監督が厳しい顔でささやき合っている。まぎれもなく全員が宝石の中でドリームを見ているのだった。


3. (ラブホテル)

ジャングルみたいなラブホテルの一室で女と男が追いかけっこをしている。外は土砂降り。

((いい書き出しじゃないですか。名前は? まだない。ケモノは名前など持たない。 待って、まずケモノなんですかね、ケダモノなんですかね。 バケモノかもしれんぞ。 ああ…。))

二人の軌跡が夜に刺青をする。誰かの傘が壊れた。泥の道に無数の穴があいている。ビルも小屋も輪郭を溶かしながら上気している。爪が伸びている。そこから始まった獣性。

((夜は更けてゆく。 深更? 獣は行進しながら更新し、夜を進行する。 親交や後進は?あと信仰も。 そんなものは捨ておけばいい。雨は重いのだから。 道も穴だらけに。 記号だ、雨の夜のための鎮魂歌。 楽譜なんですね。 そう、なのか?))

男の背中が夜になると、女は強々つよつよと爪を立てる。声のない慟哭がその圧だけで空間を揺らす。明かりはない。本棚の本を焼く。男を空っぽの本棚に磔る。ラブホテルの中にだけ夕焼けのオレンジが走る。

((慟哭─音=空無ではなく。 無でも有でもない、悲しみだよ。 果てしのない? そうかもしれない。 焚書と磔刑ですね。 夕焼けのな。 復活を予感してしまいますが。 まあそう急くな。))